チェリビダッケのブル5

Urlicht2007-01-04



このCD[Altus]が売れに売れている。1986年のサントリーホール開館記念で来日した際の演奏。チェリビダッケの、海賊版を含めたディスコグラフィの中でも、特筆すべき一枚だと思う。ここまで高音質なチェリビダッケの録音自体が少ない。大手レーベルのライブ録音程度の解像度はあるし、なによりも変なリマスター臭がしない、自然な音響がすばらしいと思う。


肝心の内容は、この年代のチェリビダッケらしい、強靱な造形力で研磨されたブルックナーが展開されている。1970年代のシュトゥットガルド放送響時代と、1990年代のミュンヘンフィル時代の演奏様式には大きな隔たりがある。晩年のチェリビダッケの志向した音楽は、時にグロテスクさすら感じさせた。すべてを拡大しつつ、執拗に描写しようとする。背後に極度の緊張がある。シュトゥットガルド時代は、音楽を丹念にバランスをとりつつ磨き上げたといった風情で、そこまでの伸張は見られない。


このAltus盤は、その2点の中間点的な演奏であると思う。グロテスクに引き延ばされていない。「チェリビダッケは苦手だったがこの演奏はいい」という話も聞くが、それも納得がいく。Altus盤はひたすら美しく、怪奇的な印象を一切与えない。要するに、わかりやすい。その分、晩年の、あのグロテスクなまでに巨大で美しい音楽を期待していると、肩すかしを食らうのも事実。ここまで完璧にすぎると、その美しさに、素直に共感できないんだよな。贅沢な悩みか。