DELTA復刻のウラニアのエロイカ

 ウラニアのエロイカは話題に事欠かない。フルヴェンが怒ってウラニア社を訴えた、ピッチが高い、CD復刻は山ほどあってどれを聴くべきか…とか。私も、ダイレクトに演奏が伝わってくる復刻に出会えず、新しい復刻が出るたびにいろいろ聴いてきたクチだ。評判になっていたGRAND SLAM盤も買ったが、ピークで音が潰れるのが嫌であまり聴いていない。そもそも、このウラニア盤を無遠慮に楽しめたことがない。音質の歪みやピッチ、針音とかいろいろ気になって、どうも落ち着きが悪い。


 今回、DELTAが復刻したものを聴いた。評判の良い「第2世代復刻」盤だ。これはとても良い。ほとんどはじめて、ノイズを気にしないでウラニア盤を集中して聴けたと思う。まず、ピッチ修正に成功しており、あのせせこましい感じがしない。ノイズも最小限に抑えられているけれど、刻まれている音を削ったりはしない。自然な音がする。その結果、細部まで聴き通すことができて、この演奏の実像がはじめてわかった気がする。52年スタジオ盤に比べると、やたら燃えている様な印象があったのだけれど、しっかり聴くとそんなことはなかった。その特徴であるテンポの移行は、ゆとりのある中で行われ、押しつけがましくならない。それが活かされているのが、第二楽章フガートである。じっくりと、各声部が一つの螺旋を描いていく。煽り立てるわけではないので、なにかがゆっくりと氷解していくような、厳しさと摂理を感じる。これは52年盤にはない表現だ。こういった発見が、多々ある。素晴らしい復刻だと言い切っても問題ないだろう。