宮下誠「20世紀絵画」を読む


なんだとは言っても、「20世紀音楽」は力の入った本だったので、「20世紀絵画」も買ってみた。こちらは、流石に専門分野だけあって、文章が自信に裏付けされている。きっと音楽の方で足りなかったのは、この自信だろう。これは入門書を踏み越えた面白さがある。図版があるのも大きい。


マーク・ロスコ、フランツ・マルクがしっかりと取り上げられている。ロスコは、実物を見たことがない人から、どこがいいのかちっとも理解できない、という話をよく聞く。どうしてああいった、カラー・フィールド・ペインティングの中でも異端な絵画を志向せざるを得なかったのかが、出自を含めて触れられている。


マルクは、日本で軽視されている画家の一人だ。カンディンスキーと共に「青騎士」のメンバーとして知られる。激しい色彩を活かし、動物や自然の生々しさを鮮烈にデフォルメしていく。「ティロル」や「動物の運命」といった巨大な存在感を持った作品は、もっと評価されてもいい。(画像は「動物の運命」) 宮下は「熱い抽象」として取り上げている。


旧東ドイツの芸術についての一節が、この本の読みどころだと言いたい。「20世紀音楽」の方でも、東ドイツの作曲家を多く取り上げていたので、興味があるのだろう。自分も興味がある。社会主義が生む、遮断・閉塞・停滞・反芻といった作用にそそられるからだ。それは時に狂気を生む。宮下も、その異常さや過剰さに惹かれているに違いない。紹介されている、ベルンハルト・ハイジヒの作品なんかは、見ているだけでもしんどい。狂っている振りをしているのか、本当に狂っているのか。ゲルハルト・リヒターが世界的に高い評価を獲得する裏で、母国で生き抜くことを選んだ画家達の叫びを無視するのは許されない気がする。