最近の買い物

買い逃していただけに、嬉しい復刻。これが、予想以上にすばらしい!この人としては珍しく、かなり遅いテンポで演奏している。映像第1集、とりわけ「水の反映」が、たいへんユニーク。水中というのは、音が遅れて聞こえてくる。まるで、水たまりの鏡面の中で、ピアノを弾いているみたい。音が水に吸い込まれて、色彩を失ってゆく、そんな鈍い美しさに溢れている。チェリビダッケの「海」も深海の音楽だった。でも、彼の志向する音楽とは違う気もする。ヴェデルニコフは、チェリビダッケのようにグロテスクなバロッキズムを求めてはいない。微妙に織りなされた、灰色のグラデーションは、とてもきれいだ。

この日記のタイトルにもなっている「私はこの世に捨てられて」が入っている。ドレイクのピアノのために買ったようなCD。ストーティンも悪くない。たまに表現が旺盛すぎると思ったりもしたけど。やかましい。「トランペットが美しく響くところ」「この世の生活」がピアノの冴え渡る佳演。

フーガの技法弦楽四重奏版は、エマーソンやジュリアードのものが代表的だけれど、どこか物足りない感じもした。両者とも理の勝った味わいが先行していて、この曲集の瞑想性というか、思慮みたいなものは見過ごされていたように思う。おれはソコロフのピアノ版をよく聴く。やわらかい抒情に魅了される。フーガの構造面を強調するより、そこにある音楽として、美しく演奏しているものが好きだ。ケラー盤は、コントラプンクトゥス1や3がすばらしい。たゆたう優しさの裏で、きしむ狂気を感じさせる。