ルソーは夢なんか見ない


世田谷美術館でやっているアンリ・ルソー展が最終日なので、徹夜明けでも見に行ってきた。気持ち悪い。


素朴派には大して興味はないけれど、ルソーは見てみたかった。下手の代名詞みたいに言われるルソーだけど、実際はそんなことはない。どうすれば視線が動くか、空間を生み出せるかといった絵画のセオリーを熟知していたのは間違いない。下図を描いて、職人的に仕上げていく。過剰な即興性を排除していく。


「熱帯風景、オレンジの森の猿たち」は実に彼らしい作品だ。安定した構図の中にも、鈍い視線の動きが隠されている。シンメトリックな構図である。しかし、この絵の不思議なところは、左から右へ微妙な色の動きがあり、奥の空間は際限ない広がりを感じさせる。左はローアンバー、右はオリーブグリーンが重用な役割を果たしている。
一見すると動きはないが、この微細な色彩調整によって絵が重くなりすぎることを防いでいる。シンメトリックな構図は宗教画に多く見られるように、秩序を示すものとしてよく知られている。そして、重厚で堅牢な印象を与えるものだが、この作品にはそういった要素は感じられない。森、あるいは自然というものは、混沌としていて、無秩序に思える。しかしながら、そこには厳粛な秩序も存在する。その二面性をこの作品は内包している気がする。奥の空間、木々の重なりも、非常に理に適った構図や色の処理が施してあり、この作家の知性がはっきりと刻印されている。


不作な展覧会だったと言えるが、出色だったのは松本俊介だろう。ルソーの影響を表現まで上手く昇華している。その成果が「立てる像」ではないだろうか。絵に勤勉さを感じる。ユトリロの白も自分のものにしている。絵画も音楽も最終的な価値判断は仕上がりにかかるところが大きいが、この人の作品は概して完成度が高い。煙突の突き上げる垂直性が、その人柄を感じさせる。同時に、早世の影も感じさせた。


もうちょっとルソーの立派な作品を展示して欲しかったかな。加山又造の辣腕っぷりと横尾忠則のバカっぷりには笑った。有元利夫はもったいないな。デザイン出身のせいか知らないけど、あの精気のない木々はどうなんだろう?